ペーパーディスク型地下水流向流速計について(Q&A)

概要

電源を使用せずに地下水の流向流速を測定することができる装置で、ペーパーディスクを透水性スポンジで挟み、地下水観測井のストレーナ付近に一定時間静置することで、染料の流れた方向を流向、静置した時間とインクが流れた長さから地下水流の流速を測定するものです。山口大学が開発(特許)、大起理化工業株式会社から発売されています。さらにこれを3次元測定を可能にしたペーパーシリンダー型地下水流向流速計(特許出願中)も開発されました。

特徴

  • 電源不要で機械部がなく軽量なため、山間部や遠隔地、海外での運用も容易
  • 従来の熱量式地下水流向流速計と同程度の測定範囲(0.03 ~1.0cm/min)を実現
  • ディスク上に発生したテーリングを肉眼で読み取り、現地で流向流速を測定可能

Q&A

【質問】ペーパーディスク型の流向流速計は専用ペーパー、スポンジが3セット装着できるようになっているが、3セット装着するのは平均化するためや深度方向の流向流速プロファイルを観測するためなのか?

【回答】深度方向のプロファイルを計測することもできます。

ペーパーディスクを上・中・下の3枚装着する場合はご質問のような使い方ができます。また、極端に観測井内の水位が低い場合は下に一つだけペーパーを挿入する場合があります。ディスクを3枚挿入するとペーパーディスクで挟まれたスポンジ内に空気が溜まりやすいため、水の入ったバケツにいったん流速計を10秒程度漬けて、スポンジから空気を抜いた後に観測することをお勧めします。検定直線の取得は中央1枚の計測の計測で行っており、計測が成功(正常なテーリングが発生)する確率が高いのは中央1枚の計測の場合です。スポンジを保護するためネトロンカバーを装着することも忘れずに行ってください。

【質問】テーリングが発生しないことがあるのですが。

【回答】複数の原因が考えられます。

  • 測定深度が浅く、スポンジ内に空気がとどまっていて水に置換していない可能性があります。
  • 観測井内でスポンジがペーパーに接触していない可能性があります。
  • ストレーナがある観測層からセンサーがずれている可能性があります。
  • 地下水流速が極めて低い可能性があります。

【質問】濁水の流入防止や浮上するガスの逃げ道確保のため、本体の直径を40㎜程度に小さくできないか。

【回答】観測井にセンサーを密着させつつ鉛直方向にガスを逃がすことが重要です。

スポンジの直径を小さくすると観測井のストレーナとの密着が失われるので正しく測ることができません。スポンジのロッド部分に切り欠きを作って鉛直方向に気体や水が通過しやすくすることで対応できます。

【質問】マクロを用いてもドットが検出されません。

【回答】計測後のドットが通常よりも薄くなっている可能性があります。

 

マクロにおいてThreshold of Red channelを105以上に上げてみてください。ただしそのことでドットが真円から歪むとテーリング長が短縮する傾向になります。

 

【質問】マクロを用いてもテーリングが検出されません。

【回答】計測後のテーリングが長すぎる可能性があります。

テーリングは目視でペーパーディスクの中心から20mm以内であることが必要です。それよりも長くなるときは測定時間を短くしてください。ただしオプションは5分、15分、30分、60分です。90分や120分の測定も参考値として得ることが可能です。例えば120分の場合、60分測定として得られた数値を0.5倍すれば概算の数値が得られます。

 

【質問】どのように観測時間を設定すればよいかわからない

【回答】多くの場合60分計測が必要です。その後観測時間を再検討してください。

 

 60分計測においてテーリング長が20mm より長い場合は15分計測をお試しください。5分計測も可能ですがテーリングが薄いため判別は難しくなります。逆に60分計測でもテーリングが発生しない場合は最大300分まで計測しても線形にテーリングが伸びます(下図A, B)。この場合マクロで解析されて算出された流速に60/測定分数を乗じることで流速の概算値を得ることができます。

 

図A 流速0.0083 cm/min における測定時間とテーリング長の関係(実験・解析:山口大学)

図B 流速0.0083 cm/min における測定時間とテーリング発生状況の関係(左:60分,中:120分,右:300分)

 

【質問】どんなテーリングが発生するのが理想か

【回答】紡錘形あるいは卵型のテーリングが理想です。

 ドットから溶出したインクがスポンジ内を移動して再びペーパー染着することでテーリングが発生します.経験的には図Bのような紡錘形のテーリングが理想です。ドットからインクがスポンジ内を分散するためドット中央から広がる傾向になりますが、流速が発生しているとテーリングは一方向に偏ります。マクロによる解析ではテーリングの重心位置の移動により流速と流向を算出しています。途中から曲がったテーリングや細長いテーリングはペーパーとスポンジがきちんと密着していないことによって生じている可能性があります。